ひきこもりのライフプラン――「親亡き後」をどうするか (岩波ブックレット) 単行本(ソフトカバー) – 2012/6/7
斎藤 環 (著), 畠中 雅子 (著)

【私の評価★★★★★】


ひきこもりに関する本を何冊か読みました。一番素晴らしかった本書をご紹介します。

前半を精神科医の斎藤環さん、後半をフィナンシャルプランナーの畠中雅子さんが書かれた本です。

前半も後半もしっかりとまとめられた密度の濃い情報で、薄い本なのに大変勉強になりました。ひきこもりの本を何冊か読みましたが、ひきこもりと直接かかわり合う状況になく、社会勉強として読むのであれば、この本を読めば十二分に理解できます。

ひきこもりに関する本では、ひきこもりを肯定的にとらえるべきと主張する本が多いのですが、私も多くの人も違和感を感じるでしょう。斎藤さんの感覚は私を含めて多くの人と同じです。

"「ひきこもったままでよい」という主張もありうるでしょうし、それはそれで理解もできます。ただ私にはその肯定の先に何があるかをまったく想像できません。私は、自分にとって予想もつかない未来を相手に押し付けることは、治療者のモラルに反すると考えています。"

ひきこもりが多いのは日本と韓国。親との同居率が高いイタリアもEUで唯一ひきこもりが問題となっているそうです。親との同居率が低い地域では若年ホームレスが問題となっています。たしかに日本では若年ホームレスは少ないです。ネットカフェで寝泊まりする若者が問題になったりもしましたが、親と同居できる状況にない人が中心でしょう。

ひきこもりが長引きやすい理由も説明されています。ひきこもり当事者と家族が断絶し、家族がそのことを相談できないでいると、その状態が固定化されてしまいがちだからそうです。外部からの介入がないので、非常に安定化してしまい、病気で言えば「自然治癒」にあたるものが起こりにくいそうです。

ひきこもりを脱するには、上から目線で説得するのではなく、家族がコミュニケーションをとり安心できる環境をつくることが大切だそうです。本人がひきこもりを恥じているので、安心できる環境を作っても、本人がその状況に心から満足することはないそうです。社会参加を促すには、「他者からの承認」という動機づけに誘導するのがいいようです。

お小遣いも与えた方がいいそうです。お店で買い物をするというというのは社会参加の第一歩です。また小遣いを減らしていってもその生活になれていくだけで、最終的には無欲の状態になってしまうのでよくないそうです。




"「ひきこもり」とは独立した病名や診断名ではなく、ひとつの状態像を意味する言葉です。いくつかの定義がありますが、共通するのは、①六ヶ月以上社会参加していない、②非精神病性の現象である、③外出していても対人関係がない場合はひきこもりと考える、の三点です。"

"二次障がいとしての精神症状や問題行動が治療の対象となります。また、未治療の「発達障がい」や「統合失調症」がひそんでいる可能性もあります。"

"男性に多いこと、国際的には日本と韓国に突出して多く見られることなどから、社会文化的な背景も原因のひとつと推定されています。"

"徴兵制がある韓国でひきこもりが問題となっている事実は、若者に対するスパルタ的な介入策が、予防策としてはおよそ意味をなさないということを示唆するでしょう。"

"本人はしばしば、家族の前では「怠け者」を演ずることがあります。(中略)そうした演技の裏に、強い焦燥感や不安が秘められていることは言うまでもありません。"

"心理学的にも、慢性的な孤独感は人を不安定にさせ、他者に対する被害感を抱かせ、自虐的・自滅的な行動パターンにつながりやすいことが知られています。逆に、家族以外の親密な対人関係は、しばしばそれ自体が治療的な効果をもたらします。"

"ずっと他者との出会いがないまま過ごしていると、ほとんどの人は「プライドが高いが自信はない」という、いびつな自己愛を抱え込むことになります。こうなると、ますます行動を起こすことは難しくなります。"

"私は治療の中で就労をすすめることはほとんどありません。その必要がないからです。集団に参加して親密な関係ができ、一定の期間を経ると、ほとんどの当事者が自発的に「就労」の希望を口にするようになります。"

(2017/07/06)